私のストーリー③

7章 山小屋の集大成の絵を描きたい!

生まれて初めての登山で山の素晴らしさを満喫し

大きな絵もかけて、

また少し自信がつきました。

登山の筋肉痛から回復してきた頃、

今度は大きな画用紙で、最初に滝を描いた時のように

紙をつなげて大きな作品を描こうと思いつきました。

なんだか私は自信がつくたびに、大きな絵を描きたくなってきます。

家族が持ってきてくれた大きな画用紙が後3枚

残っていたので、それを横につなげたら

160㎝以上になります。

「これに、山の雄大な自然をパノラマで描けたらすごいのでは!?

山小屋の集大成としてそんな絵が描きたい。」

どこを描こうかと考えた時、前から山小屋にある地図に

載っていたある場所が気になっていました。

山小屋から徒歩1時間30分ほどの場所にある

「カモシカ展望台」

山小屋の人達は、みんな

綺麗な見応えがあるところだよと言っています。

しかし、問題がいくつかあります。

私は今までの2時間休憩時間中、カモシカ展望台にたどり着けたことはありません。

実は最初の休憩時間に山小屋の近隣を、

アルバイトの男子が案内をしてくれたことがありました。

カモシカ展望台に行くまでの間。中間地点ほどに兵馬ノ平という湿原があります。

そこまでなら行って帰ってこられるだろうと

案内してくれたのですが、

私の脚が遅く、慣れない山道に息切れをして

休憩時間内に山小屋に戻れず、山小屋のご主人にご迷惑おかけしてしまったことがありました。

兵馬ノ平までの片道コースタイムの目安は50分。

休憩中にギリギリ往復できる時間なのですが私には無理でした。

ちなみに地図に載っているカモシカ展望台までのコースタイムは1時間25分です。

だったら2時間の休憩時間にカモシカ展望台まで往復なんて不可能なのでは?

と思ったのですが、

山道に慣れている山小屋の男子達は

全然余裕で行って帰ってこられるというのです。

コースタイムはあくまで、初めて行く人がゆっくり迷わないように歩いた時の

目安時間で、慣れた道を走れば余裕で往復可能とのこと。

本当かなぁ?

と思いましたが、とりあえずチャレンジしてみることにしました。

まずは前回ダメだった兵馬ノ平まで、急いで往復してみました。

流石にあれから2ヶ月程の山小屋生活と登山経験のためか

ゼーゼー言いながらも休憩時間内で往復出来ました。

それから、晴れた日の休憩時間に何度も兵馬ノ平アタックを繰り返し

時間を縮めることに成功ししました。

このペースなら行けるのでは!

そして、満を持してカモシカ展望台アタック。

結果

3回玉砕しました。

2時間の休憩中に絶対に帰って来なければならないので、

少し迷ったと不安になっただけで、道を探索する時間もなく

途中で断念して引き返すことが続きました。

そして滑りやすい木道を走ってくので、片道平均2、3回ころびます。

ぬかるみに突っ込み泥だらけになることも。

やはり私には無理なのか?

と思いましたが、それでも3度目の正直で

ついに、カモシカ展望台まで行くことが出来ました。

高台からの大パノラマ。

遠くの山々が連なって、滝が何本も流れているのが見えます。

「ここだ!ここを描くしかない。」

そう決めました。

しかし、この時から1ヶ月待つこともなく、

10月の中頃に、私はバイトを終え、山を降りなくてはならなくなります。

「それまでに、何としてでも描きあげよう!」

ダッシュで山小屋に帰りながら、私は心に誓いました。

8章 カモシカ展望台を描く!

そうと決まれば

どうやったら出来るのかを考えます。

今のままでは往復するだけで精一杯。

とても絵を描くどころではありません。

休憩のタイミングは一日ごとに変わって、

午前休憩の時は朝の掃除の後のコーヒータイムの後。

午後休憩の時はランチと夕食の仕込み後の我々の昼ごはんの後。

コーヒータイムと昼ごはんは大体30分くらいで、

後の30分はお菓子やデザートなどをつまみながらの近状報告をかねた雑談タイム。

この休憩時間前、約30分の雑談している時間を

どうしてもカモシカ展望台を描きたいので!

と主張し、特別に早く抜けられるようにしてもらいました。

持って行く紙と画板などの画材や飲み水は、ザックに詰めて、

従業員の出入り口の邪魔にならないところに、朝起きたら置いておきます。

そして、帰って来たとき。

絵を描いてダッシュで帰ってくると汗だくで泥だらけ。

そのまま食事を作る業務に戻るのも気が引けますので、

ザッと温泉で体を清めてから仕事に戻ります。

(山小屋は水が貴重なためお風呂が無いところも多いのですが、

私が働いていた山小屋は温泉が豊富に湧き出るので、いつでも入ることが出来ました。

それを幸いに私は朝昼夜と13回も温泉に入ってました。)

そのための着替えとタオルも温泉の近くの従業員の物置に準備しました。

そうして、雨の降っていない日は

コーヒータイムや昼食を早々に切り上げ、

従業員出入り口まで早足で駆け抜け、ザックを背負い、

走り出します。

絵を描く時間は最初は5分くらいしか取れませんでしたが、

山道を覚えて慣れて、走るのも早くなり、

荷物を準備していたりと無駄をなくす工夫も出来るようになり最終的には

20分くらい絵を描く時間を作ることが出来るようになりました。

カモシカ展望台まで40分で走り、

20分で絵を描き

40分で走って帰り、

残り20分ほどで温泉に入り着替え

仕事へ戻る。

トイレや何かのトラブルや絵を描く準備、

片付けの時間のため少し余裕を持たせて大体こんな感でした。

そんな日々が続きました。

休憩時間ってなんだっけ?

と、後から冷静に考えれば思うのですが、

不思議とその生活をやっている時は、

疲れを感じませんでした。

私が山小屋で働いていた年は、例年に比べて雨が多い年で、

登山客も少なめだったそうです。

なので、2日か3日に一度は雨でカモシカ展望台に行けなかったので、

なんとかやっていたのかもしれません。

雨の日は皆としっかりお茶をして沢山お話をして、

女子部屋で白馬岳登山の時に描いた絵に色をつけていました。

色をつけながら寝落ちしていることも良くありました。

雨の日以外は行ってきましたが、

必ずしも描けるとは限りません。

せっかく走って来たのに

ガスでほとんど覆われて描けない。

途中から雨が降ってきて描けないなんてことも良くありました。

それでも出来る時にコツコツと描き進めて

1枚描き終わると紙を横に継ぎ足し2枚目

そして3枚目と描いている間に時はあっという間に過ぎ去って行きました。

カモシカ展望台に通い始めた頃は、まだ青々としていた山々が

みるみる上の方から黄色に赤にと染まっていきます。

気温もドンドン下がって行き、10月に入る頃にはダウンジャケットが無いと

きつく感じられるようになりました。

走っている時は汗ダクダクでも

絵を描いている時には体が冷えてすごく寒いので、防寒具も荷物に入れて

飲み物は温かいコーヒーやお茶を魔法瓶に入れて山小屋の人が持たせてくれました。

そうこうしているうちに、あっという間に

3ヶ月のバイトが終わり山を降りる日が近くなりました。

山を降りる3日前。

あと少し!完成まであと少し。

絵が描ききれないところでタイムアップ。

もう少しだけど、休憩時間中にどうしても帰らなくてはら無いので限界です。

仕方なく、その日は諦めて帰りました。

次の日。

大雨

とても山小屋から出られる状態ではありません。

下界の天気予報は山の上ではそんなに当てにならないのですが、

大きな低気圧が新潟付近に停滞しているとのこと。

「こりゃ明日も雨だな〜」

と山小屋のご主人も言っています。

今年は雨の多い年。

まさかもうカモシカ展望台の絵を完成させられないまま

山を降りることになるのかな。

不安になりながらも。

明日の最終日は雨が降ってもカモシカ展望台に走って行くことを決めました。

山小屋生活最終日。

朝から雨でした。

雨だけでなくガスも濃くて、窓の外は真っ白です。

朝の掃除が終わり、私は早番の休憩時間でした。

コーヒータイムの時に

「本当に行くの?何も見えないでしょ」

と皆なに言われましたが、

誰が何と言っても行くと決めていたので、

コーヒータイムをさっさと切り上げ、

いつものザックに雨よけのカバーとレインスーツを着て

山小屋を飛び出しました。

雨は昨日ほど強く無いですが普通に降っているし、とにかくガスが濃い。

自分の手を前に伸ばすと手のが見えなくなるくらい

まわりは真っ白です。

視界はほぼゼロですが、走り慣れた山道は分かります。

滑りやすくなっていたけど、何とか走り抜けました。

40分。走って走って、

カモシカ展望台の脇道を抜け、いつも酷いぬかるみのある場所は

今までで一番酷い状態でドロドロになりながら展望台への道をよじ登り

森を切り抜け周りの景色が開ける展望台にたどりついた。その途端

真っ白なガスが

サーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とひいて、雨が止んで空が明るくなり、カモシカ展望台から見える山々の紅葉に染まった大パノラマが目の前に開けたのです。

まるで、分厚いカーテンを開いたかのようでした。

よっしゃ〜〜〜〜〜!!!」

と、急いで画材を取り出し、バババーーっと絵を完成させました。

完成したのです。

この時、私は

「なんて奇跡だ!」「わー!こんなことが起こるなんて信じられない!!」

とかは思いませんでした。

あくまで

「よっしゃ〜〜〜〜〜!」でした。

昨日の夜から、なぜか周りに何と言われとうとも、どんな状況だとしても

「絶対に景色は見えるし描ける」

と確信していて、想像通りのことが起こったので

冷静に作品を完成させることが出来ました。

描き終わった途端にポツポツとまた雨が降ってきました。

空が暗くなりガスがモクモクと山々の下から登ってきています。

よし!帰ろうと素早く荷造りをして

走り出しました。

森に入る時に、なぜかハッとして、

最後にカモシカ展望台を振り返りました。

その時、白く煙って行く山々に

「お前は風景画を描け」

と言われたような気がしました。

急に、を感じました。

大いなる山の神様達が最後に描かせてくれたんだと分かりました。

今まで感じていなかった大きな力と約束をしたような

しっかりとメッセージを受けとったような、通じ合った感じ。

自分の力で生きているのではなくて、

生かされていると肌で感じました。

色々な思いが込み上げてきて

大きな声で

「ありがとう〜〜〜!!!」とお世話になった山々に叫び

泣きながら山小屋へ走って帰りました。

そして、奇跡のような山小屋生活が終わりました。

最後の朝。

昨日に引き続き雨でした。

いつものように宿舎の掃除をして、

自分が3ヶ月間寝泊まりした女子部屋を掃除をして、

コーヒータイムを終えて、

皆んなにお礼を言って、山小屋の若旦那に車で駅に送ってもらう時間になりました。

駐車場に向かおうと外に出ると、

雨が止み、紅葉の広がる景色の上に、

きれいな大きな虹がかかっていました。

その時にまた

「約束だよ」

と山の神様達の声が聴こえたような気がしました。

約束。

私はこれから風景画を描いていく。

風景画家になろうと決めました。

山に来る前は、自分が何を描きたいのかがよくわからなかった悶々とした日々を

送っていました。

山に来たばかりの時は、風景画なんて嫌いだけど、

やることないんで仕方なく暇つぶしで描いていました。

それがまさか、こんなことになろうとは。

本当に奇跡に満ちた信じられない3ヶ月間でした。

「山から降りたら、とりあえず、山で描いた作品で個展をすることにしよう。」

そんな考えに思いをはせ、ぼーっとしている私を乗せた車は

虹の橋をくぐり、街へと降りて行きました。

カモシカ展望台

 

 

私のストーリー④

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